この記事のタイトルは:
「 スイッチボット「ボット」が押せなくなった|3Dプリンターで交換修理 」です。
近年では多くのIoT製品が増え、エアコンやテレビなど様々な家電のコントロールが可能になってきています。
その中でもブランド名でもあり商品名の一部になっている「Switchbotのボット」は、外出先からスマホなどから自宅の物理的なボタンを押してくれることで、照明のスイッチを点けたり消したりできる、画期的で便利なアイテムです。
そんな便利なスイッチボットの「ボット」君ではありますが、とても残念なことに数年使用していると、押せなくなってしまい、結果としてアーム部品が壊れやすい難点があります。
ある日、弊社スタッフの一人が「最近、うちのスイッチボットがボタンを押せなくなった」「どうしたらいい?」と質問がありました。
スイッチボットは個人的にも利用しているので知っていましたが、押せなくなったことは今のところありません。そこで、ボットが外せるなら明日持ってきて!と伝え、自宅に設置されていた押せなくなったボットを外してスタッフが翌日持ってきました。
何が原因か詳しく見ていたら、(押すモードで利用)アーム部分の回転部が割れていることに気付き、これを修理してみよう!ということから、この記事が始まります。

確かに樹脂プラスチック性のアーム部分の回転部が割れている状態が外観からも確認できたため、「押せなくなった原因はこれだね」となります。
ただ、このアームだけが割れている状況ならば簡単なので「アーム部品を3Dプリンターで作って修理してみよう!」となり、そのスタッフの勉強も兼ねて3Dデータの作成と3Dプリンターで出力して交換するまでを手伝ったという話です。
我に返って考えてみると、「ボットのボタンが押せなくなって、困っている人も多いのでは?」ということで、同じ境遇の方のために、ここではスイッチボットのアームの3Dデータをダウンロードし、プリントアウトしたものを交換するまでの手順を紹介していきます。
スイッチボットのボットがボタンを押せなくなった症状とその原因
仮に3Dプリンターで製作してうまく交換できても、また壊れるようなら、また交換作業の繰り返しです。そのため、先に症状から見える原因が何なのか?を考えてみました。
ここで対処できる症状としては以下のような状況になった場合です
- 単純に起動しても押せなくなった
- アームは動くが押す力が足りない
- アームがスイッチの奥まで押し切らない
- 電池は新品なのにボタンが押せなくなった
このような状況以外となりますと、内部基板の破損や通信遮断、または設定変更などで利用ができない状態が考えられるため、それらを疑うことになります。
アームがボタンを押せなくなる原因
これらの症状と状態を確認した結果、便利なボット君は(毎日1,2回利用下で)大抵2,3年でアームが割れて押せなくなるものと推測します。
これは押した時(アームが動いた時)に90度を超えて押し込むのですが、相手(ボタン側)の押し込みストローク制限によってアームが止まる構造が単純にモーターのトルク限界を迎えて止まる構造のようです。(あくまでも推測です)
その状態であれば、アーム側の軸の切り欠き部にトルクが伝わり、テンションが掛かった状態が維持されていることが予想されます。
そのため、使用のたびにアームの樹脂には負担がかかる仕様(設計)です。止めるためのセンサーを持っているのではなく、モーター側のオーバートルクで規制する(止まる)だけなので、押し込んだ先ではアームに負担が掛かった状態です。
この構造仮説が正しければ、いずれ樹脂製のアームは破損します。概ね2,3年でアームの軸のあたりから割れている(押せなくなっている)のがネット検索しても同じような状況が散見されます。
全ては仮説ではありますが、アームが破損する原因は推測できたので、新たに作る3Dデータをその対策も含めて設計し直すことも考えます。
しかしながら、ボットのハウジングケース内にはほとんど余裕がないため、アームの断面などを厚くするとか応力を逃がす構造を持たせるなどの追加できるスペースがほとんどなく、あまり良い対策方法はありません。
そのため、まずは単純にボットのアームを採寸して、破損前の状態と全く同じ形状で製作していくことにします。
耐久性アップの対策方法としては、3Dプリンターで出力する際にメディアを高強度素材を利用するか、いっそのこと金属プリンターでアームを金属化してしまえば圧倒的に耐久性が上がると考えられます。
スイッチボットの割れたアームの修理方法と手順

さて、この割れたボット君のアームですが、分解してみれば分かるように、非常に小さい部品です。モーターとの差し込み部分が割れただけのためにボタンを押し込めなくなってしまい、他の部分は正常であることがほとんどだと思います。
まだまだ使えるスイッチボットをアームの破損だけで新品に交換するのは少しもったいない気がします。
そこで、アームを3Dプリンターで作って交換して再利用できるか試してみます。
別案では、割れた樹脂を修理する方法としてプラリペアで接着する方法もありますが、この方法は接着しているだけなので、今回はアームの軸部分が割れた状態であることと、そこに常時負担が掛かる物に対して、原因の観点からはプラリペアで接着する方法は適していません。
接着ではまた同じことになりやすい、ボット君のアーム部分は3Dプリンターで製作してしまうのが得策です。
結果としては3Dプリンターで作ったアームに交換して十分元通り復活します。その手順を以下でご紹介していきます。
スイッチボット「ボット」の分解作業
まずはボットを取り外し、蓋を開けて中身を確認します。その前に、外から確認できるなら、アームを(無理矢理)動かして、回転部付近が割れている状態かどうか見てから取り外しましょう。
アームの回転軸部分が割れていなければ他の原因になります。その場合はここでの作業とは別の原因が疑われます。
ボットの全面パネル(蓋)を開けたら、中身を分解していきます。以下のような手順でモーターが出てくるまで分解していきます。
スイッチボットの分解手順
- (電池を外してから)最初に見えている白い樹脂のフレームを引き出します。
- 基板に繋がったコネクターを外します
- 2枚重ねの上面基板の取り外し(両面テープで接着されている)
- 2枚目基板の3か所のネジを緩めて基板を取り外す
- モーター部分と一緒に引き出しながらケースから分離
- 割れたアームをモーターのシャフトから抜く
※手順5のアームの取り外しは、割れていれば手順4の時点で外れます。
※手順4でモーターアッシをケースから取り出す際には、無理に引き出さず、マイナスドライバーなどで左右を徐々に引き上げながら外すと良いでしょう。
※部品によっては爪もあり、ケースにハマっている状態ですので、少しずつ引き出しましょう

最初に樹脂の白いフレームを引き出しますが、ケースの内側にある突起部分に引っかかっていますので、マイナスドライバーなどを利用して、爪部を乗り越えながら、引き出していきます。
樹脂フレームが引き出せたら、次に1枚目の基板に挿してある配線のコネクター部を抜いて外します。単純に引っ張るだけで抜けます。

1枚目の基板は両面テープで2枚目の基板に接着されているだけです。そのため、1枚目と2枚目を分離させます。
次に2枚目の基板はネジで固定されていますので、3か所のネジを緩めてから2枚目の基板が取り出せます。ここが分かっていないと、基板が1つに見えていくら頑張っても破損させてしまうだけです。
2枚目の基板も取り外せたら、最後にモーターアッシ部分をケースから取り出します。
画像撮影を忘れていたので既にアームが取りついている画像を利用しています。

モーターアッシは配線とギヤ部分が取り付けてある状態までです。これ以上は分解する必要はありません。
この時に既に破損したアームがクラック程度なら一緒に外れますので、アームをモーターシャフトから引き抜きます。完全に分離しているようでしたら、モーターアッシを引き出す前にアームは分離できていると思います。
これでスイッチボットの分解作業は完了です。次にいよいよい3Dプリンターでアームを作っていきます。
3Dプリンターでボットのアームを製作
3Dプリンターでアームを作るには、3Dデータ(3次元形状)が必要です。
3Dデータは、この次章に3Dデータを用意していますので、そちらを利用していただいて構いません。(ここで実際にプリントした3Dデータになります)

大抵の3Dプリンターは3DデータをGコード化してから出力(印刷)ファイルに変換することがほとんどかと思います。光造形でも製作できますが、ここでは普及しているFDM(熱溶解積層方式)で製作していきます。
内部は100%で(埋めて)製作しましょう。小さいので100%で埋めても5分足らずで完成すると思います。サポートも必要ありません。

こちらが印刷が完了した3Dプリンター製のスイッチボット用交換アームです。
積層方向を間違えるとまた割れやすくなりますので、その辺りは3Dプリンターの管理者と相談して出力しましょう。通常は横に寝かして飛び出たシャフト用の穴が上に向いた状態で積層するのが正解かと思います。

完成した3Dプリンター製のアームと割れたアームを並べてみますと、このようになります。この完成した3Dプリンター製アームをスイッチボットの分解したモーターの軸に戻していきます。
アームの取り付け
分解していたモーターのシャフト(軸)部分に3Dプリンターで製作したアームを取り付けます。
シャフトには切り欠きがあり、真円ではなく半月形状です。そのため、その切り欠き部分にアームの穴を合わせてモーターのシャフトに挿入します。ここが合っていないと差し込むことはできません。

切り欠きがあるので、アームは自然と回転位置が決まってしまいます。アームを回転させてケースに戻しやすい回転方向へ回しておきます。アームが小さいので少々硬いですが無理やり回すしかありません。
部品を元に戻して仮動作確認
モーターの軸にアームが差し込めたら、モーターアッシをケースに戻しますが、この時、真っ直ぐ押し込んでいっても、どこかに引っかかる印象はあると思います。
これは、モーターの軸部とアームの大きさによって、ケースを少し広げて入る設計になっているためです。無理に押し込んでいくしかないのですが、ケースを割らないように注意しながらモーターアッシを元の位置まで押し込んでおきます。

新しいアームがモーターのシャフト部分に差し込んだ後は、分解した時の他の部品類(基板2枚と樹脂フレーム)を分解作業の逆の手順で組付けていきます。
モーターと基板を接続するコネクター部を差し込んで、電池を戻せば完了です

こちらが3Dプリンター製のアームへの交換が完了した状態です。この状態までくれば、ネットワークに繋げて、まずは仮でアームの動作確認は可能だと思います。
ここではスタッフのボット君はスタッフの自宅環境で接続されているものなので、作業中には実際の動作確認ができませんでした。そのため、無理やりアームを回転させて動かして引っかかりが無いかなどの確認のみになります。この時点で問題があるようには確認できません。
一旦、スタッフに持ち帰らせて、「再設置前に必ず動作確認してから取り付ける必要があるよ!」と伝え、持ち帰らせました。その結果は次章に続きます。
交換したアームでスイッチボットの再設置と動作確認
翌朝、スタッフがニコニコした顔で出社してきました。さて、どちらの意味でしょうか?と聞いてみましたら、「完璧です!」の第一声。
→うまく作動できたようで、耐久性もありそうな感じということ。再設置した画像を持ってきてくれました。
何より、自分で採寸から3Dデータに起こしてプリントアウトしたアームが普通に動いていることに感動し、「これぞDIYの醍醐味だ」と喜んでいました。大半はこちらが手伝っていたのですが…
無事にここで製作した3Dデータからの3Dプリンターで作ったアームで元通りになったということで一安心です。

3Dプリンターで作ったアームは精度がしっかり出ていれば3Dデータのままで問題なく動作しますが、プリント品にバリや収縮があれば引っかかたりするかもしれません。
再設置前に実際にアームをコントロールで動かして問題なければ、破損前の位置に再設置して作業は完了です。
これでひとまずこの先2年くらいは利用できると思います。アームの樹脂の素材を変えればもっと長期に利用できると思います。出力(印刷)できる素材が豊富になってきているのも3Dプリンターの強みです。
3Dプリンター出力用交換アームの3Dデータ
ここで使用した3Dプリンターで製作した3Dデータをダウンロードできるようにしました。
あくまでも、個人様がDIYでボットのアームを修理するために利用するためのものです。商用利用は不可としておきます。
自由に利用していただいて構いませんが、これらのデータを利用して修理・改造などを行って不具合がありましても一切の責任は持ちません。
3Dデータは合計3種類用意しています。違いはスイッチモード用の切り欠き穴なし・あり・番外編のおまけ付きの3種になります。
「押す」モード専用
「押すモード専用」はスイッチモードでピックアップできる穴を無くしています。もともとはスイッチモード用に紐を引っ掛けるピックアップ用の穴がありますが、非常に小さい穴なのと「押すモード」で押し込みにしか使用していなければ、3Dプリンターの製作では強度面も考え、穴を無くしたものを用意しておきました。
スイッチモードで利用する(穴有)場合は次に進んでください。
こちらからダウンロードできる形状は↑の押すモード用限定タイプになります。くるくる回せます。
ダウンロードできる3Dファイルは.stp形式です。汎用3Dファイルなので多くの3Dプリンターでそのまま利用できます。
但し、3Dプリンターの性能や精度によっては出力できても調整が必要になります。図面と照合しながら出力された完成品を組み込み前にチェックしてみてください。
スイッチモード用穴あり(プッシュも可)
こちらからダウンロードできる形状は↑のT溝形状の穴ありタイプになります。くるくる回せます。
ダウンロードできる3Dファイルは.stp形式です。汎用3Dファイルなので多くの3Dプリンターでそのまま利用できます。
但し、3Dプリンターの性能や精度によっては出力できても調整が必要になります。図面と照合しながら出力された完成品を組み込み前にチェックしてみてください。
おまけ(プッシュ延長版)
スイッチボットは貼り付けが両面テープになることで両面テープ厚みが邪魔したり、押しボタンが少し奥にあったり、押したいボタンにストローク量が必要だったりと、結果としてそのままでは押し込めないことも多々あるようです。
汎用品ならではの課題点ではありますが、アーム側に1.5mmの高さの突起を作ったタイプも用意しておきます。
スイッチボットのアームが当たる箇所にシールなど貼ってかさ上げするような場合、こちらでスッキリ代用できる場合はあります。こちらの3Dデータの突起部高さは1.5mmです。
押し込みたいボタンによって突起部の高さを変更してあげてください。但し、3D CADを利用して直接3Dファイルの修正が必要です。
交換用アームの寸法確認2D図面
3Dプリンターなどで出力したアームの寸法が正しいか確認しやすいように2次元図面を用意しておきます。ノギスで当てて確認しやすい観点での寸法表示です。

3Dプリンターで出力したら、必ずスイッチボットに取り付ける前に、簡易的でも寸法チェックしておきましょう。
まとめ
毎日のように使用していれば、いずれ割れてしまうであろう、スイッチボットのボットのアームを3Dプリンターで製作して修理・交換する方法をご紹介しました。
DIYが得意な方や、アームだけが壊れて新品に交換するのはもったいない!と思う方の役に立てばと思います。
今では3Dプリンターは随分身近になってきていますので、友人が持っていたり、オフィスで利用していることも多くなってきているかと思います。しかしながら、なかなか3D形状(データ)まで作成してもらうのは難しいかもしれません。
もし、身近に3Dプリンターがあれば、ここでご紹介した手順でDIYでスイッチボットの壊れたアームを修理してみてはいかがでしょうか?
ここで紹介した3Dデータを利用すれば、押せなくなったボットのアーム交換作業は恐らく1時間もかからずに全て完了できると思います。
アームを用意する方法がなければ、やはり諦めてスイッチボットごと新品に交換するしかありません。
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