この記事のタイトルは:
「バイクのクラッチ操作を不要にするE-Clutchの便利さ」です。
昨年(2024年6月)にホンダから市販バイクでは初となるE-Clutch(イークラッチ)搭載車の「CBR650R E-Clutch」と「CB650R E-Clutch」が登場しました。
今後、このE-Clutch搭載車は順次拡大されていくものとされ、既に2025年モデルのRebel250にも搭載されております。
E-Clutchは簡単に言えば、発進・停止時やシフトチェンジの際に必要なクラッチ操作をバイク側が自動で行ってくれる機能です。
これにより、クラッチレバーを一切触ることもなく、エンジン始動から停止までバイク側でクラッチ操作を全て自動で行ってくれるという、画期的な機能と言えます。
そこまで大きな話題にもなっていないよう感じではありますが、バイク史上の中では一つの転換期とも言える機能です。以前から構想はあったものの市販化されたのはホンダが最初で2024年の兄弟車のCBR650RとCB650Rからになっています。

「クラッチ操作が不要になるなんてスクーターでもあるまいし、バイクとしての興味が薄れる」といった意見もあろうかと思います。但し、E-Clutchの良いところとしてもう一つ、従来通りのクラッチ操作もできるといったところです。
E-Clutch搭載車はクラッチ操作を全て自動化してくれるが、機能をOFFにすることもでき、更にONの時でもクラッチ操作ができるという、あらゆるニーズに対応できる事が特筆するべき点です。
頭では理解できるが、バイクに長年親しんできた方にとっては、クラッチ操作が身体に馴染んでおり、クラッチ操作不要?と言っても違和感でしかありません。
「エンストしないのか?シフトチェンジで引っかかったりしないのか?」など、なかなか疑問と不安が残ります。
これは是非試してみたい!ということで、昨年9月に注文して年末には納車されていた「CBR650R E-Clutch」でしたが、時期的に寒いのと検証するような時間が無くて納車後にはガレージに突っ込まれたままになっていました。

ようやく暖かくもなってきたこともあり、納車後に2回ほどエンジン始動していただけのE-Clutch搭載車のCBR650Rを引っ張り出してきて、E-Clutchの疑問点に実際に走行して身をもっていろいろと確認しました。
ここでは、実走行によって感じたE-Clutchのメリット、デメリットと疑問点の解消を含めて、ご紹介していきます。
E-Clutchとは?自動操作の仕組みと範囲
先にE-Clutchの説明となりますが、クイックシフターについても説明しており、少々長くなります。E-Clutchを既にご存知の方はこの章を飛ばして先に進んでください。
ホンダのE-Clutchは、ライダーのクラッチ操作を完全に不要(自動化)としてくれる機能です。
クラッチ操作を必要とする、発進時・シフトチェンジ(アップダウン)・停止時に関して、走行における全ての必要なクラッチ操作を自動でバイク側がE-Clutch機構によって操作(自動化)してくれます。
クラッチ操作を電子制御化することで、バイクのクラッチ操作は必要な時のみとし、初心者のライダーからステップアップしたい方、ベテランライダーまで幅広いライダーをサポートし、あらゆる場面でライダーのクラッチ操作による負担を減らします。
「Honda E-Clutch ポータルサイト」より

E-Clutchの機構部分はその作業的にもクランクケースのクラッチカバーの外側に設けられています。
クラッチカバーも専用になっていると思われますが、内部のクラッチ部分やリリースアーム類は全て非搭載車と共用できるような構造です。
クラッチレバーからの入力操作も可能としているので、モーターによってクラッチのプッシュロッドを押すリリースアームの内部で直接的にシャフトを代替して回転させているものだと思われます。(断面図からの想像です)
走行中にエンジンを吹かしたい(シフトチェンジなどで回転数を自分でコントロールしたい)場合には自動では対応できませんので、クラッチレバーを握る必要はあります。
公道走行でそこまでシビアに運転される方は少ないと思いますので、この点は補足程度です。
E-Clutchとクイックシフターの違い
クラッチ操作不要と言えば、以前より市販車でもクイックシフターがありました。
但し、クイックシフターはシフトチェンジのみ(アップのみかアップダウンの両方)しか作用しないので、発進時の半クラッチはライダーの操作が必要です。

E-Clutch搭載車のCBR650(/CBR650R)にはクイックシフターも搭載されています。
クイックシフターもシフトチェンジ時にクラッチ操作を不要としない機能ですが、E-Clutchもシフト操作時に介入しています。
そもそも、クイックシフターは点火・燃料カットやエンジン回転数を合わせてクラッチを切らずに変速ギヤを変更可能状態を作るものなので、根本的に半クラッチ状態を生み出すことができるE-Clutchとの役割は違います。
「E-Clutchとクイックシフターの違い」を簡単に表にまとめると、以下のようになります。
項目 | E-Clutch | クイックシフター |
---|---|---|
クラッチ操作 | 完全に自動化(クラッチ操作不要) | シフト時のみクラッチ不要(発進・停止時は必要) |
対象用途 | 街乗り・ツーリング向け | スポーツ走行・サーキット向け |
仕組み | クラッチの電子制御 | エンジンの点火・燃料カットでシフト操作を補助 |
発進・停止 | クラッチ操作なしで可能 | クラッチ操作が必要 |
シフトチェンジ | クラッチレスで可能 | シフトアップ・ダウン時のみクラッチレス |
一方、Rebel250 E-Clutchにはクイックシフターは搭載されていません。そのため、シフトチェンジ時のクラッチ操作は全てE-Clutchが行っています。
そのため、少しゴチャゴチャしますが、この2モデル(E-Clutch搭載車)のシフトチェンジ時の機能介入の違いとしては以下のようになります。

バイク | シフトチェンジの方式 |
---|---|
CB650R | E-Clutchが基本だが、高回転域ではクイックシフターが優先される |
Rebel250 | ライダーがシフトペダルを操作し、クラッチはE-Clutchが自動制御 |
CB650R(CBR650R)では状況に応じてE-Clutchとクイックシフターが使い分けられ、Rebel250ではE-Clutchのみがシフト時に作用するという違いがあります。
これを念頭にCBR650Rで高回転時にシフトチェンジしても、正直どちらが機能してギヤチェンジができているか体感できるほどまでは分かりません。
ECUで制御しているため「この回転数以上はクイックシフターに切り替わっている」などということもありませんし、走行中の様々な状況次第でクイックシフターとE-Clutchをそれぞれ機能させていることかと思います。
実際にE-Clutchを試して感じたそのメリット
ホンダのE-Clutchはエンジン側に機構を持つため、クラッチレバー側には特に機構を持っているわけではありません。そのため、ハンドル周りは非搭載車と全く同じ状態です。
CBR650Rはクラッチがワイヤー式です。E-Clutchは現状ではワイヤー式にしか対応しない機構ですが、原理的には油圧でも可能になるとは考えられます。
CB1300SFにもE-Clutchが欲しいところですが、クラッチが油圧式のため、まだしばらくは搭載されないかもしれません。一方HORNETあたりには今後ラインナップされるのではないでしょうか。

それでは、「CBR650R E-Clutch」で100kmほど市街地とバイパスを中心に走行してみたE-Clutchのメリットとデメリットを個人的な感想を含めて以下に挙げていきます。
信号待ちのクラッチ操作によるストップ&ゴーの負担が激減する
E-Clutchはライダーのクラッチ操作が不要になることが目的なので、もちろん、それが一番に挙がります。
このクラッチ操作が不要になる事で、最も利点に感じたのは信号での停止時・発進時です。

赤信号で停止・信号待ちの際に1速に入れたままクラッチレバーから手を離して停止していることができます。これが何より最も便利に感じます。
また、信号待ちで(手を離したい時に)ギヤをニュートラルに入れておく必要もありません。
信号が青になる前にニュートラルから1速に入れる必要がなく、何より信号待ちで左足で停止していることが多いので、1速に入れるには車体の支えを右足に移してからギヤを1速に入れる作業をする方も多いと思います。
その作業が不要になるので、信号停止前で1速か2速に入っている状況であれば、ブレーキで止まるだけです。青になればアクセルを開けて自動でE-Clutchが半クラ操作をしてくれて発進できます。
最初はついついクラッチを切ろうとしてしまいますが、徐々に慣れてくるとクラッチレバーは完全にお飾りになってしまい、一切触る必要がありません。
レバーを外しても問題ないほどに「スタート時もシフトチェンジ、停止時も全てクラッチレバーを触ることなくクラッチ操作を自然にこなしてくれています。」
これがメリットなのは当たり前のことですが、もう少し制御面でギクシャクしたり、意図しないところでリリースしてくれない。半クラが不自然、シフトチェンジがしにくいなど、何かしら感じるものがあるだろうと思っていたのですが、逆の意味で裏切られました。
本当に自然な感覚でライダーの意図に沿ったクラッチ操作が実感できました。
- 発進時 → 自然な半クラ状態を維持して違和感なし◎
- シフトチェンジ → ミスなくアップダウン両方で入りやすいい◎
- 停止時 → ブレーキかけて止まるだけ◎
- クラッチレバーを握る → E-Clutchの介入は即キャンセルされる
- クラッチレバーを離す → E-Clutchモードが直ぐに復帰
E-ClutchがONの時にクラッチレバーを握った場合
ここからは少し補足になりますが、E-ClutchをONの状態(OFFにするにはメーター内から操作)でクラッチレバーを握るとすぐにE-Clutchは機能していない状態になります。
これはメーターディスプレイの右にある緑マークが消えた状態が機能停止を意味します。
クラッチレバーを離すと、1秒かからないくらいの感覚でランプが再点灯し、E-Clutchモードになります。

こういったケースですと分かりやすいかもしれません。
「発進時にクラッチレバーで自ら操作して走行開始。2速に入れたい時は既にE-Clutch状態です。クラッチ操作せずに2速にシフトチェンジできます。」
もちろん、クラッチを握って2速に入れても問題ありません。
エンジン始動後(E-Clutch起動状態)はクラッチレバーはスカスカ
エンジン停止中はE-Clutchが起動していませんので、クラッチレバーを握ると通常通りの物理的なクラッチの反動があります。
一方、エンジン始動後(E-ClutchがONの状態)のニュートラル状態では、クラッチレバーを握ってもクラッチからの反動は無く、スカスカの状態になります。

これはエンジン始動後ニュートラル状態では、E-Clutchがクラッチのプッシュロッドを押し込んでいる状態(レバーを握っている状態と同じ)だからだと思われます。
走行中はクラッチが常時繋がっていますので、E-Clutch起動中でもクラッチレバーを握れば通常通りの反動があり、スカスカのレバーを握るような状態ではありません。
つまり、エンジン始動後(ニュートラル時)のアイドリング中はスカスカだけど、走行中にクラッチレバーを握れば通常通りの反動があります。これにより、全くと言っていいほどE-Clutchを起動していてクラッチ操作しても違和感や不安を感じるようなこともありません。
ニュートラル時でもレバーを握ってギヤを入れたらE-Clutchは解除されています。そのため、発進時は通常通りの半クラ操作を自ら行う必要があります。ギヤを入れて解除されても、ニュートラルにすれば再度E-Clutchは起動します。
他に一つ挙げると、エンジン始動後すぐと、暖まってきた後のE-Clutchの半クラ感覚に違いはあります。これはエンジン始動後時間や油温など含めて制御の判別対象になってはいるので、エンジン状態なのかE-Clutchの制御によるものかは分かりません。
暖まってしまえば同じことなので、僅かの感覚であり、どちらが優先されているかは分かりません。
E-Clutchのデメリットを挙げてみる
ここまでE-Clutchについて実体験をもとにご紹介してきましたが、正直デメリットなどあるのでしょうか?というほどに完成しているものだと思います。
E-Clutchのハウジングが邪魔には感じる
E-Clutchが後付け的な要素を持ちますので、エンジンのクラッチカバーより構造部が外に出ているために、なかなか邪魔には感じます。

機構のモーターも大きいためかハウジングとしても大きく、後付け感があります。車体を右側に倒したりコケてしまった時には簡単に地面と接触するようにはなります。
なお、走行中に足が当たってライディングポジションを邪魔したりするようなことはありません。エンジン熱で手で触れないほど熱くなったりする箇所でもありませんので、それらの点は心配不要です。
E-Clutch分の価格上昇(+5.5万円)
また、その(E-CLUTCH)機構分の車体価格の上昇ということがあります。
現時点では、E-Clutch搭載車と非搭載では、5.5万円(税込)の違いがあります。
E-Clutch自体は後付けできる構造ですが、ECUが対応できるかまでは分かりません。自動車のメーカーオプションのように後から装着できないものとして、最初にE-Clutchモデルを選んでおくのが得策です。
上記に挙げた2点くらいしかあえて挙げるデメリットとしては思いつきません。
その他に考えられるデメリット?として
考えが古いかもしれませんが、バイクの醍醐味でもあるクラッチ操作が不要になる事で、バイク本来の楽しみが減ってしまうという考えもあります。
ただし、「クラッチ操作があるのがバイクの良いところ」と考える方にとっても、E-CLUTCH自体はその機能をOFFにできますので、そういった方は普段はOFFにしておくことで対応が可能です。
これもデメリットとして挙げるものではないのですが、AT限定二輪免許でE-Clutch搭載車は適用範囲外です。
E-Clutchによってクラッチ操作は自動化されますが、シフトチェンジ操作は必要です。そのため、ATとは意味が異なり、AT免許の範囲には収まりませんので注意が必要です。
ちょっとだけ気になった点で挙げると、エンジン始動後すぐと、暖まってきた後のE-Clutchの半クラ感覚に違いはあります。これはエンジン始動後時間や油温など含めて制御の判別対象になってはいるので、エンジン状態なのかE-Clutchの制御によるものかは分かりません。
暖まってしまえば同じことなので、僅かの感覚であり、どちらが優先されているかは分かりません。
まとめ:E-Clutch搭載車か非搭載かを選ぶ際の参考として
E-Clutchは先述のように信号待ちでニュートラルに入れておく操作も不要なため、(足つき性、立ちゴケの観点で)特に身長が低い方や女性にはE-Clutch搭載車を選んでおくことが間違いないと断言できます。

クラッチ操作が不要となることで、E-Clutchの副産的に以下のような方に恩恵が得られます。
- バイクの足つき性が不安な方(立ちゴケの低減)
- 信号待ちでギヤを1速に入れたまま手が離せる
- リターンライダーなどでクラッチ操作が不安、忘れてしまった
- シフトチェンジ毎、発進時などいちいちクラッチ操作が面倒だと思う方
- ロングツーリングなどでの左手疲労の軽減
E-Clutchに慣れてしまえば、クラッチ操作の全てが不要です。
アクセルとブレーキ、シフトチェンジ操作時の全てでクラッチレバーに触る必要がありません。クラッチレバーを外しても走行に支障がないほどです。
それほど完全にクラッチ操作を自動化してくれるE-Clutchは、バイクの楽しみを一つ奪ってしまうものかもしれませんが、進化のスピードが遅いバイクにとっては、この数年の中でも革新的な市販車が登場したとは言えます。
ホンダ車以外でもE-Clutch同様の機能を持つバイクが今後増えていきますので、これを機に、少しコロナ後でバイク業界の元気が無くなっていたところの起爆剤になってくれたらと思います。
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